(3)相談《9月―頭の痛い季節》 ~2003年9月の記録 ∬第3話 相談 娘と同じ音楽教室に通っていたYちゃんの母親とは、教室の外でも親しい交際を続けていた。その彼女に、値上げの話を知っているか、今後も続けるつもりか聞いてみると、のんびりしたところのある彼女は、上がったとは聞いたが、いくらになったかは知らないという。 「月に300ミリオンよ。70%も一気に上がったの」 「300!高すぎる!」 「新しいムドゥル・ベイ(校長氏)がなんて言ったと思う?国民教育省からの通達で、3ヶ月に一度25%のザム(値上げ)をしてもいいと言われていて、本来は6月にも値上げをするはずだったのに、旧い料金でいただいてたって」 「でも、考えてみて。3ヶ月に一度25%の値上げをしていたら、1年後にはほぼ100%、2倍になってるわよ。そんな話あるわけない」 生徒がこのところ減ってきていること、先日第2教室を開設して経費がかさんでいるだろうこと、おそらく借金があるだろうこと、そんな私なりの推測を披露すると、 「きっとあなたの言うことが正しいわよ」 彼女は「いい考えがある」という風に、朗らかな声を掛けてきた。 「ねえ、金曜日に学校の音楽教師に会いに行きましょうよ。今年から土曜日に音楽の課外授業を始める予定があるんですって。もし料金がこちらの都合に合えば、そこで一緒に習わせればいいし。朝、電話で打ち合わせしましょう。タマンム(いいでしょ)?」 「タマーム(オーケー)」 オーケーとは言ったものの、学校の音楽教師に習わせるというアイデアには、実はあまり乗り気にはなれなかった。 娘の学校の音楽教師は、夫妻で各自授業を持ち、校庭での国家斉唱の際には、ご主人が指揮を、奥様がオルガンを演奏して臨むおしどり夫婦。我が家の近くに住んでいるということもあって、休日には連れ立って外出している姿をよく見かけた。 同じマンションに住む女の子二人が、奥様の方にピアノを習いに自宅まで通っている縁から、我が家まで習わせに来てもらえるか、一度打診したことがあったのだ。が、相手を外人と見たのか、出張レッスンで上乗せしたせいか、1時間20ドルと言ってきて断った経緯があったのだ。 学校の先生ですら、お金を稼ぐチャンスとなると随分強気になるものだなあと、その時は思ったものだ。 金曜日の朝、10時も過ぎようという頃になって電話が鳴ると彼女からで、今起きたのと疲れた声。 「うちに来てくれる?朝ごはんを一緒にとりましょう。」 子供たちをそれぞれ学校と幼稚園に送り出すために、私の方は8時前には朝食を済ませていたが、「じゃあ、1時間後にね」と言って電話を切った。 自宅にお邪魔するのは2回目だったが、彼女は「あなたはヤバンジュ(他人)じゃないから」と言いながら、薄物一枚で私を中に招き入れた。 キッチンのテーブルに腰掛けて、彼女の話に耳を傾けると、親戚間のちょっとしたいざこざがあり、昨夜は遅くまで寝られなかったとのこと。 医者という立場のご主人を頼って、朝夕問わず親戚たちが病気だ、見てくれと電話をかけてきては、その都度遠くまで往診に行かされるはめになり、そのことで普段から疲れ果てているのに、昨夜は昨夜で、叔母が夫婦ゲンカのあげく暴力を振るわれて怪我をしたという。早速頼ってこられたものの、事が事だけに実の姉妹にあたる母親に相談したら、なぜ告げ口したのかと叔母から責められたのだと。 「私が間違ったことをしたと思う?」 「いいえ、もし私があなたの立場だったら、同じことをしたと思う」 それにしても・・・トルコの親戚関係って、どうしてこうも厄介なのか。 日頃さんざん頼っておいて、そのくせ感謝の気持ちもなく、何か起これば逆ギレして恨んでみたり・・・。 「日本でも親戚って同じ?」 「そうね・・・逆、かな。同居している家族には遠慮なく世話になるけど、離れて住んでる遠い親戚には迷惑にならないよう気を遣うような気がする」 親戚関係に悩まされているのはいずこも同じ。今月初めに行われた姪の婚約式には特別に出席したけれど、実は、夫も今年に入って家族に絶縁を宣言していたほど。 結局、家族親戚とは距離を置くのが一番ということで意見が一致。 そんなこんなで、そろそろ昼食の時間になろうかという頃、おしゃべりに花を咲かせながら彼女は遅い朝食を、私は2度目の朝食を済ませ、私に心のつかえを吐き出して幾分か気持ちの晴れた彼女はシャワーを浴びて、ようやく外出の支度が整ったのだった。 つづく ∬第4話 対決 ジャンル別一覧
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